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Author:魔王三銃士
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『ある銀色の機械』



 自分はどこにでもいるような高校生だと思っていた。ほんの数分前までは・・・・・・・・・。まず、現在の状況を整理してみることにする。周りには木々が生い茂り、見渡す限り緑が広がっている。どうやら大きい山の中にいるようだ。と、まぁそこまではいいのだが。。困ったことに俺は今、『人間らしきもの』に取り囲まれている。『人間らしきもの』というのも、俺が知っている人間ではなく、尻尾が生えているような人間と猿の中間といった感じの生物だ。猿人というのが一番ふさわしいかもな。とりあえず、なぜ俺がこんな状況に置かれているのかを思い出してみることにする。

 8月のある日。俺は高校からの帰り道を歩いていた。最寄駅から自宅までは5分とかからないので、駅からは歩いて家まで帰っているのだ。いつも通り歩いていると、道端に銀色のものがキラリと光ったのだ。今思えば、あんなものに興味を持たなければこんな状況に陥らなかっただろうに。いくら俺でも神様をうらみたくもなるね、ほんとに。そんなわけでゴミのような銀色のものを手にした俺は、それに異様な興味を持った。小さな銀色の箱には『たいむましん』と書いてあった。その横に文字盤があり、OKと書いてあるボタンが並んでいる。ここで一つ断っておくが、いくらこんな子供だましみたいなものだったとしても、少しいじってみたくなるってのが人間だろう。だから、好奇心に負けて『たいむましん』をいじった俺を責めるやつはきっといないだろう。断言しよう!俺じゃなくてもいじってたはずだ!いじらないやつをぜひこの目で見てみたいものだね。・・・・・・・・・とまぁ、こんなかんじで『たいむましん』を手に入れた俺は文字盤を【2222】とゾロ目にそろえてみた。こういうものを見ると、なぜか数字をそろえたくなるってのが俺の性格だ。だから、OKのボタンが赤く光った時には正直驚いたのさ。これまた、いきなりボタンが光ったりしたら押したくなるってのが大多数の人間の心情だろ?だからおれがOKボタンを押したことには、何も悪いところはなかったわけだ。

 そんなわけで、OKボタンを押した俺は気づいたらこの場所に立っていた。ここでようやく冒頭のに戻るわけだ。それにしても、ここは一体どこなんだろうか?周りの猿人を見る限りは、現代より昔に来てしまったみたいだが。おっと、勘違いしないでほしい。随分落ち着いていると思われているだろうが、こちとら頭の中が真っ白すぎて、逆に冷静になってしまっているんだ。昔の時代に飛ばされる小説なんてのは何回も読んだことがあるが、まさか自分が飛ばされることになるなんてね。小説家もびっくりだろうよ。

 不幸中の幸いか、その猿人たちは俺を襲うつもりはないみたいだ。それどころか、俺を仲間だと思っているらしい。言葉は伝わらないが食べ物を持ってきてくれたり、寝床(といってもただ藁を敷いただけなのだが)を用意してくれたりしているので悪い気はしない。それに俺はあまり慌ててはいなかった。こういう悲劇の主人公というのは、すぐに元の時代に戻れるって相場が決まっているからさ。それ以外の何物でもない。昔読んだ小説の主人公もなんだかんだで元に戻れたわけだし、きっと俺もそのうち戻れるだろう。だから今のうちにゆっくりしておこうと思ってたのさ。戻ったらテストとかいう、強大な敵が待ってるんだからな。

 ところが、歩いていてあるものを見つけたとき、俺は自分の考えの甘さを知ることになった。この時ほど神様を恨んだことはないだろうね。それはどうやら東京タワーらしかった。朽ち果て、大部分が土に埋まっているが見まちがえはないだろう。「まさか?」と思うだろ?俺も思ったさ。だって、ちょうどこんなシチュエーションで、最後に自由の女神が埋まっているのを確認し、人類が滅んで地球が猿に支配された事を知った・・・・・・みたいな映画があっただろ?まさにこの映画とうりふたつなわけだったんだ。ということは、俺は未来に来てしまったことになる。しかも、あの映画では元の世界には帰られなかったんじゃなかったか?そう考えて、俺は怖くなった。【2222】と押したのは、きっと西暦2222年という意味だったんだ!まさかこんな未来に地球がこんなことになってしまうなんて。いや、帰れる方法はある!あの銀色の機械をまたいじれば、元の時代に帰れるんじゃないか?【2008】と押せば、また2008年に戻って普段どおりの生活を送れるはずだ。そう考えた俺は、すぐさまポケットの中の機械を取り出し、【2008】と打ち込み、OKボタンを押した。

 さて、実はここからが大変なんだ。俺は【2008】と打ち込み、2008年に戻ってきた。・・・・・・はずだった。たしかに新聞を見ても2008年と書いてあるし、日付も同じようだ。ただ一つ違うことといえば(これが一番問題なのだが)、知り合いがいないのである。こんなこといきなり言っても、きっと理解してくれないだろ?だからわかりやすく言うと、自分の親や友達がいないのだ。それどころか、住んでいる人も皆別人だ。いや、家自体違う形している。隣のおばさんもいつの間にか若い一人暮らしの男に変わっている。もちろん最初は俺も、違う町に飛んだんじゃないかと思ったさ。看板には『喜多市』と書いてあった。俺の町は『立山市』だから、やっぱり違う町に飛んだんだろう。

 と、ここまで語ってきたが、喜多市というのはどこなんだろうか?コンビニで地図でも確認てみるか。ちょうどあそこにセ○ンあるし。


ガーーーーーーっ(自動ドアの開く音)


あ、これだな。周辺の地図は。えぇっと・・・・・・・・・。ん?あれ?俺の町が載ってない?何でだ?何で立山市の場所に喜多市の名前があるんだ?まさか・・・・・・・・・。





 ところ変わって未来の研究所。

研究員「所長、また時間を超えて人間が別の時代に飛んでしまったようです。」

所長「またか。歳は?」

研究員「18歳の高校生だそうです。まず、彼の暮らしていた時代から2222万年前の時代に飛びました。この時代は第1558代人間が滅び、猿人が支配していた頃ですから、たいして面白いことはなかったでしょうね。その後、機械をいじり、今度はそこから2008万年前の時代に飛びました。この頃は第1067代人間が支配している頃になります。現在この時代にいるみたいですよ。」

所長「そうか。高校生なら事実に気づいてしまうかもしれんな。人間の歴史が何度も作られていることを。・・・・・・そろそろ気がおかしくなってしまう頃だろう。キミ、彼を元の時代に返しておいてくれ。もちろん記憶は全て消してな。頼んだぞ。」

研究所にある辞書の『人間』の項にはこう書かれている。

「人間はこれまでに何回も誕生・滅亡を繰り返してきました。しかし、そのたびに同じような文化を持ったり、同じような建築物を作りました。これは非常に不思議な事実です。」

-完-

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 魔王三銃士でラジオを録音しました。
 初めての試みなので、雑音や変なトークでいっぱいのラジオとなりました。特にミンティアが頑張っています。

 続くかどうかは、未定です。

 パソコンでしか聴くことができません。ご了承ください。

こちらからどうぞ!

※ ラジオ内に出てくる情報は間違っている部分もあります。もしも興味を持った情報がありましたら、お手数かけますが自分でもう一度調べて下さい。すいません。
『月明かりの下のメロディ』



 ある夜のこと。一人で旅をしている女性は、平野にあるのどかな小さな街にきていた。その街から隅にある、とある邸宅にやってきた。その女性がドアをノックすると、中から初老の女の人が顔を出した。
「なにか、ご用でしょうか?」
 その女の人は不思議そうな顔をしながら訊いた。
「突然お伺いしてこのようなことをお願いするのもなんですが、一晩だけ泊めていただけないでしょうか?」
 女性は申し訳なさそうに、下をうつむきながら言った。
「そうですね…。唐突に言われましても…。でも、この時間になってしまったら、もう他に行くところもないでしょうし、あなたのような女性がずっと外にいるのも危ないでしょうから、どうぞお入んなさい」
 初老の女の人はやさしい口調で言った。
「すみません、ありがとうございます」
 女性は深々と頭を下げて、初老の女の人に続いて中に入った。

「そういういことだったのですね…」
 二人はテーブルを挟み、向かい合う形でイスに座っていた。女性は今一人で旅をしていること、その旅で出会ったたくさんの人のこと、そして今日この街にたどりついたことなどを正直に話し、初老の女の人も楽しそうに聞いていた。
 ひととおり話し終えたところで、女性は部屋に案内された。
「きっとお疲れのことでしょうから、今日はゆっくり休んでくださいね」
 初老の女の人はそういってやさしく微笑みながら、ドアを閉めた。

 そのままベッドで横になっていると、どこからかピアノの音が聞こえた。それはとてもきれいな音色で、女性はだれが弾いているのかが気になりだし、部屋を出た。どうやらそれは、廊下の一番奥の部屋で弾いているらしい。
「そういえば、この家ってあの奥さんに誰がいるのかしら?でも、誰も紹介されなかったし…。このピアノは奥さんが弾いていらっしゃるのかしら?」
 そう不思議に思ったが、好奇心の方が強く、ドアを開けていた。

 その部屋には、若い男性が座っていて、ピアノを弾いていた。月の明かりに照らされて、その姿はとても幻想的だった。
「あの…そのピアノ…すごくお上手ですね…」
 女性は、ピアノ演奏に支障をきたさないように小さめの声で言った。
「えっ?……あなたには、この音が聞こえているのですか?」
 男性は演奏を止め、驚くように言った。
「はい。私、今旅をしていて、今日はこちらに泊まらせていただくことになって、一人部屋にいたら、このピアノの音が聞こえてきて、どなたが弾いていらっしゃるのかと思って……あっ!勝手に部屋に入り込んでしまってごめんなさい」
 女性が慌てながら言っていると、すすり泣く音が聞こえてきて、女性はどうしたらいいのかわからず戸惑ってしまった。
「どうか…なさいましたか?」
「いや、僕のピアノの音が聞こえてくれたことが嬉しくて…」
 男性の言葉に、女性はますます戸惑ってしまう。
「それって…どういうことなんですか?」
 涙か引いて、落ち着きを取り戻してきたころ、男性が口を開き、こう語りだした。

「実は僕、もうこの世の人ではないんです。数年前に事故に遭って…。ちょうどその頃、僕はこの部屋に住んでいたんです。当時はまだここはアパートみたいな形で何人かが下宿していたんです。今はみんな出ていってしまって、奥さん一人だけになってしまったんですけどね。僕の部屋は当時のまま残されていたんで、ときどきこうやってピアノを弾きに来るんです。べつに誰かに聴いてもらいたいと思っているわけじゃないんですけど、奥さんも見に来ないんでもしかしたら聞こえてはいないのかなって思っていたんです」
 そうやって話す男性の声を聞いていたら、女性はなぜだか切なくなってしまった。それと同時に、彼のピアノをもっと聴いていたくなった。
「そうだったんですか…。あの、もしよろしかったら、夜が明けるまでここであなたのピアノを聴いていてもいいですか?」
「そんなかしこまらなくても…。こんな演奏でよければ、どうぞ」
 男性は振り返り、微笑みながら言った。その微笑みには嬉しさが溢れているように見えた。そういえば、顔を見たのはこの瞬間が初めてだった。女性は、とても爽やかな人だなという印象を受けた。

 男性は一生懸命ピアノを弾き、女性は熱心にそれを聴いていた。そうしているうちに、時間はどんどん過ぎていった。


「もうすぐ夜が明けて、陽がまた昇りますね。そうしたら、僕は行かなきゃなりません…」
 ある曲を弾き終えたときに、彼がぽつりと言った。
「そう…ですよね。やっぱり、そう…なんですよね…」
 彼女はどうしようもない気持ちでいっぱいだった。今まで旅を続けてきたけれど、こんな気持ちになったのは初めてだった。それをどうしても彼に伝えたかった。だけど、どう言っていいのかわからない。それがとても苦しかった。
「あの…またここに来て、ピアノを弾いてくれますか?もし弾いてくれるならば、私ここでその日を待ってます。奥さんに聞いてみてからになるんですけど、待ってたいんです」
「わかりました。必ず戻ってきます。でも、旅の途中じゃ…」
「旅はいいんです。あなたの演奏を聴いていたら、なんだかよくわからないけど、旅よりも大切なものを感じたんです」
「僕の演奏を聴いて、そう感じていただいたなら、とても嬉しいです」
 そう言いながら、彼は立ち上がり右手を差し出した。彼女もそれに応えるように右手を出す。お互いの手が触れたとき、窓の外から光が射してきて、彼の体が半透明になり、だんだん見えなくなった。
「今日はありがとな!」
 彼が言う。彼女は「何か言わなきゃ」と思った。
「絶対戻ってきてね。私、待ってるから…!!」
「わかったよ」
 彼が微笑みながら、右手を挙げた瞬間、ついに見えなくなってしまった。彼女は、大きな喪失感に襲われていた。それだけ彼女の心の中で彼の存在が大きくなっていたことに気が付いた。


 朝になり、奥さんと朝食をとりながら彼女はこう切り出した。
「きのう、ピアノの音してませんでした?」
「そうかしら?私には、聞こえなかったわ」
 優しく笑いながら、そう言った。彼女は「やっぱり聞こえてないんだ…」とちょっと寂しくなったけど、気を取り直して本題へと移った。
「あの…これもまた唐突なんですが、しばらくここにいさせてもらうことは出来ないでしょうか?昨日は『一晩だけ』とか言っておきながらで本当に勝手で申し訳ないんですが…。お力になれることはなんでもしますんで…」
 彼女は自分の思いを素直に告げた。
「そうね。私は構わないわよ。もともと、ここは下宿場だったのよ。だから、部屋も余っているしね。一人で住んでいるよりも楽しくなるわ。だけど、あなた、旅の途中じゃない?」
 奥さんは、ちょっと心配そうな顔をしながら尋ねた。
「なんだか、ここの街にもう少しいたいと思ったんです。この街で何かを感じられそうな気がするんです」
「そう。あなたがそう感じるのなら、そうかもしれないわね!じゃ、よろしくね」
「はい、よろしくお願いします」
 こうして、奥さんと彼女の二人暮らしが始まった。


 この様子を彼は微笑みながら見ていたのであった。そして、今晩もまた彼の弾くやさしいピアノの音色を彼女は熱心に聴いているのだろう。



-end-

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『平和を目指すキッカケ』



 一人旅に出ようと思った。

 故郷は、我が幼い頃になくなってしまった。種族はバラバラに散ってしまい、我は、行き場をなくした様々な種族が暮らす集落で育った。
 我はとある泉のほとりで生まれた、由緒正しき血統のダークエルフである。ダークエルフは、銀髪か黒髪、多くが赤い目を持ち、人間に似た姿をするが長い耳を持っている。我らの種族は特に、魔法力が強く、また格闘も心得ていたため、魔族の中でも強い種族だった。
 本来魔族とは、ひとつの種族が一所で育ち、大切なものごとを受け継ぎ、絶やさぬようにしていくもの。その伝統が途絶えてしまったのだから、その地に一生をささげる必要もない。

 だから、旅に出ようと思ったのである。
 人間と魔族の争いが続く今の情勢を、この目で傍観しようと思った。そして旅の中で、もしかしたら、我の同胞に出会うこともあるかもしれない、という小さな希望も持って。
 ……本当は、それらの理由など、後付けなのかもしれない。我はただ、不安定なこの世に答えを見つけ出したかっただけなのかもしれない。何のために戦い、何が残るのか。それを、見つめてみたかったのだろう。

 近頃では、人間の勢力拡大が激しさを増し、住む場所を追われた魔族が多くいた。反抗する種族もあったが、どうしても勢いのある人間どもに勝てず、その地を捨てて、別の地を探すことになる。
 魔族には、統率力に欠けるところがある。単純に力比べをすれば、断然に魔族が勝つことだろう。しかし、人間は弱いが故なのか、よくまとまり、知恵と道具を振りかざして闘う。弱点をまんまと突かれた形だろう。

 我は、一人で旅をしていたので、人間との戦闘はあまり経験しなかった。人間の住む場所を避け、なるべく無駄な殺生をしないようにした。我の目的は、人間滅亡ではないのだから。
 たまに人間と争うことがあっても、人間ごときが我に勝てるはずもなかった。人間どもには魔法が使えない。噂によると、魔法を使う人間もいると言うが、我はまだ、どこぞの国の兵隊としか戦闘をしていないので、そのような存在に出くわしていない。

 旅立ちから数年、そんな自己防衛のための殺生も噂に尾ひれをつけて、魔族の間では「伝説の魔王」とさえ呼ばれてしまっている。思っている以上に、殺し過ぎたのかもしれない。人間どもの間では「白銀の魔王襲来」と言われて、たまに我を狙って派遣された兵隊と対峙することもあった。
 更なる戦闘は、更なる伝説を積み重ね、もう世界に我の存在を知らぬ者はいないのではないか、というほどだった。
 しかし誰も、我が何のために旅を続けているのか知らない。我にも、どんな答えが知りたくて旅を続けているのか、よくわからない。いつの間にか、争いの渦中である。

 そんな、ある時。
 我は小さな、エルフの里に立ち寄った。ちょうど、人間どもの軍隊との戦闘で、里の近くを焼け野原にしてしまい、それを見ていたエルフたちに迎えられたのだった。
 勝手な伝説話も幸いして、我はよい待遇をしてもらった。残念ながら同胞に関する話は聞けなかったのだが、最近では魔法を使える魔族も減っているという、残念な話を聞いた。
 数十人ほどが暮らす小さな里であったが、我を迎えるために里人みんなで祭りを開くことになったようだ。広間には様々な飲食物が並び、中央にはやぐらが組まれていて、この里で崇められている三本の矢が置かれていた。やぐらの周りをエルフたちが踊り、騒ぎ、また装飾で我を歓迎する。

 里の長に挨拶をした後、少し離れた場所で一人、酒を飲んで、エルフたちの盛り上がっている様子を眺めていた。一緒になって騒ぐよりも、楽しそうにしているのを見ている方が、なんだかいい気持ちになれる。
 すると、エルフの娘が一人、我のそばにやってきた。右腕には、里の風習なのか、ジャラジャラと腕輪をつけていた。
「魔王様、楽しんでいらっしゃいますか」
「ええ、この酒は、とても美味しいですね」
「……もっと、怖いイメージを想像していたけれど、そんなこともないのね」
 魔族には豪快な性格の者が多い。我の丁寧な話し方に娘は驚いていた。
 娘はグラスに酒を注ぎ、一気に飲み干した。
「私、ここの酒しか飲んだことがないから、美味しいのかどうか、よくわからないの。本当はもっといろいろなことを知りたいのに、外の世界には危ないから出てはいけないって、みんな口をそろえて言うのよ。情けないわ、人間にびくびくしながら里の中から出られない生活なんて」
 話しながら、娘はどんどん酒ビンを空け、顔も真っ赤だ。面白かったので、我は黙って話を聞いていた。
「どうして魔族と人間は争わなくちゃいけないのかしら。昔はお互い無関心に生きてきたじゃないの。それをどうして、今さら、どちらか一方が滅びなくてはいけないのよ。魔王様、あなたもどうして闘っているの。何のために、闘っているのですか」
「我は、別に……」
 明らかに飲み過ぎた娘は、もはや我の声も届いていないようで、いつの間にか泣きながら訴えていた。
「私はね、ただ平和な世の中が見てみたいのよ」

 娘の悪酔いに気がついた里人が、娘を担いで家に帰してゆく。
 月も昇りきったころ、里の祭りは終わった。我は長にお礼を言って、エルフの里を後にした。

 森の奥に存在したエルフの里から、いくらか歩いてきた人気のない場所にあった大木を、本日の寝床とした。我はたいてい、立ち寄った集落に長居をしないことにしている。噂や伝説のおかげで、なんとなく落ち着かないのだ。
 静かな深夜の森で、エルフの娘のことを考える。あの娘は、どことなく我の考え方に似ていたような気がする。そして、我は何のために闘っているのかと訊いた。
 このまま何も考えずに、迫ってくる人間どもを倒しているだけでは、いけないような気がする。
 今日は少し疲れた。もう寝よう。

 …………朝。動物たちの活動がはじまる頃。
 森の奥、昨日立ち寄ったエルフの里から、黒煙が立ち上っていた。

 我が人間の気配に気が付かなかったという事実に驚きが隠しきれず、とにかく里に向かう。
 そこに広がるエルフの里は、完全に崩壊していた。広場にあるやぐらも崩れ、三本の矢も見当たらない。エルフも全滅してしまったようである。
 我は、急いで一軒の家に向かい、その崩壊した家のがれきをかき分けて、エルフの娘を探した。エルフは、死んでしまうと、水が蒸発したように跡形もなくなってしまう。こげた木片をどかしていく度に、なんだか悲しみが押し寄せてくる。
 何枚目かの木の板をどかした時、娘が右腕に付けていた装飾品と、焼けた布切れが出てきた。
 森の活動する音が、耳に入ってこなかった。

 ……我は、現実から目を背けていたのかもしれない。
 昔、エルフの娘が言っていたような「共生」できる世界になればいいなと思ったことがある、しかし我は何もしなかった。世界中をめぐって、ただ戦争を眺めていただけだった。人間との闘いも自己防衛という言い訳を使って、傍観者を決め込んでいた。
 エルフの娘のように、現実を見て熱くなることが出来なかった。
 だから、愚かな人間どもが勢いに乗って、魔族に脅威を与え続けても、見ているだけだった。
 ……本当は、きっと、世界の答えを探していたはずなのに。

 なかなか決心できなかったのかもしれない。自分で動き出す決心が。
 今度こそ、決意しよう。我は、平和のために闘わねばならない。
 しかし、娘の望んだ「共生」の世界を目指すことは、どうやら出来そうにない。人間どもの横暴を、我は許すことが出来ないからだ。エルフの娘は、共に生きたいと、平和主義の立場でいたのに、人間どもは、自分たちの生存だけを考えて、いま闘っている。そのような者どもと共生など出来ないだろう。

 我はこの日から、魔王の称号を認め、世界中の魔族を統括することにした。
 人間どもにはなかなか足を踏み入れることができないような高い岩山の頂に、その本拠地を建て、何重もの結界を張り巡らせた。大げさな防御は、昨今の魔法力低下の中において、魔族に我の力を見せつけることになる。
 魔族の弱点である統率力、団結力を我が補うことにより、今では各地で魔族がそれぞれに力をふるっている。また、魔法の研究も進め、人間どもを効率よく消し去る方法を考えている。

 そのような政策を行っている最中に、ある噂話は聞いた。人間の中にも、とても強い力を持った人間が現れて、魔族の住処を荒らしていくと言うのだ。いわゆる勇者の誕生、なのか。
 もしかしたら、我に気配を感知させずにエルフの里を全滅させたのも、その勇者によるものかもしれない。
 ……面白い。我らも全力で人間全滅に挑もうではないか。

 もはや、人間どもの好きにさせてなるものか。共生できないと言うのであれば、死は人間どもに捧げよう。


   終


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『65年前の話』



 日本ではありませんが,戦争中のお話です。夏の暑い日,ひまわり畑の中をを兵隊となった郵便局員は歩いていました。名前は神楽健(27)といいます。
 健が兵隊になったのは3日前。健のところにも招集が来たのです。郵便局員として生きていきたかった健はどうしようもない気持ちでいっぱいでした。今から軍の方に赴き,その意志を伝えに行くところでした。
 軍に着いた健はすぐさま牢に入れられました。牢にはたくさんの人がいました。健は残りの人生を牢の中で過ごすことになりました。

 健が牢に入ったその1時間前,こんな連絡が入りました。

「只今神楽健をひまわり畑で発見!発見時にはすでに亡くなっていた模様。これから詳しく調べる予定。繰り返し連絡する。只今……………」

-完-

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